まちの香りで、旅の思い出にトリップする。JR長与駅の新しいお土産「このたび」が生まれました。

良い旅は、お土産と思い出を持って帰りたくなる。特別な非日常で味わう良い景色・良い出会い・良い時間が、私たちをそうさせてくれます。
「この旅は、素敵なまちへ行ってきましたよ」
そんな枕詞から始まる会話のそばに、こんなお土産があったらいいな。
長与町のものづくり会社と福祉法人から、旅の記憶に直接呼びかける“まちの香り”を再現した新プロダクト「このたび」が誕生しました。
長与町に新しい賑わいを運ぶ、観光列車「ふたつ星4047」のおもてなし
まちの中心部には長与川が流れ、自然豊かな環境がすぐそばにある長与町。小高い丘の上には団地が建ち並ぶ暮らしやすい地域です。

特産品といえば、みかん、いちじく、オリーブ、レモンなどが栽培されています。大村湾を望む段々畑にみかんが実っているのも長与町らしい風景ですね。
ただ、暮らしのまちである長与町に、今まで県外や海外から観光客が足を運ぶ機会はあまりありませんでした。
そんな中で舞い込んできたニュース。2024年3月より、九州のD&S列車「ふたつ星4047」がJR長与駅に特別停車することが決まりました。
GOOOOOOOD STATIONでは、ふたつ星の乗降客の皆さまに毎度“おもてなし”をしています。地域住民をおもてなし隊として巻き込みながら、自慢のドリップコーヒーや長崎県産酒、オリジナルのアップサイクルキーホルダーなどを販売してきました。


毎週末、長与駅のホームで賑わいが生まれていたのですが、一つ気がかりだったのは「インバウンド向けの商品」が不十分であること。
海外の観光客に、ふたつ星の列車の旅や長与駅での思い出を持ち帰ってもらいたい。その地域らしいお土産に出会う特別な体験を届けたい。

GOOOOOOODは、ゴム製の「SANSAIマグカップ・コースター」を共同制作した〈津野田ゴム〉社長・津野田幹太さんと、インバウンド向けの新商品開発に向けて議論と試行錯誤を重ねてきました。
素材を練る・型で作れる・旅に合う。「お香」プロダクトの可能性
お香のアイデアを持ち込んでくれたのは、津野田ゴムのプロダクトデザインを担う社外パートナー・石原さんでした。
「自分たちは“作ること”は専門だけど、“開発”は専門じゃないんです」と説明する津野田さん。話し合いでアイデアが膨らんでいく中、実現性の観点から軌道修正し、商品というかたちにするためにリードしてくれるのがプロダクトデザイナー・石原さんという存在です。

石原「SANSAIを作った時、GOOOOOOODのメンバーさんが“材料を練り練り”する作業をすごく楽しんで取り組んでくれていたというフィードバックをいただいてました。その情報が私の中にもストックされていて、練る・混ぜる作業をぜひ取り入れたいなと思ってたんです。そこにぴったりハマったのがお香でした」
津野田ゴムの強みは、ものづくりの要である“型”を創り出せること。ゴム製品・加工のプロであると同時に、型さえあればゴム以外にもさまざまな素材に活かせます。
お香はまさに、香料の粉を混ぜてこねる作業を伴うものでした。

石原「それと、人の脳でにおいと記憶を司る部分が近いこともあって、香りを嗅げば思い出がよみがえる“プルースト効果”というものがあります。これって、旅と親和性が高いんじゃないかなと思って。お香は以前から作りたくて、あたためておいたアイデアでした」
長与町といえば、みかん。香料を配合し、柑橘系を思わせる爽やかな香りを再現したお香があれば、長与町のまちの香りをお土産品として出せるのでは。
石原さんはすぐに津野田さんと構想を共有し、ものの1週間で試作が完成。「爆速でしたね(笑)」と笑いあう雰囲気が、チームワークの良さを物語ります。
制作メンバーの中で、“旅先で思い出の香りを持ち帰る”という商品のコンセプト像が立ち上がりました。
やわらかさでとがる! 長与町のものづくり会社・津野田ゴム
津野田ゴムの強みである“型”。
これをもう一歩だけ具体的にいうと、デジタルデータの活用ができること、3Dプリンタで試作品が作れること、そして豊富な型の研究をしていることが背景にあります。

というわけで、行ってみました! 津野田ゴムの製作ルームへ!
ー津野田さん、そもそもどうして型の研究をするんですか?
津野田「Instagramのネタのためですね(笑)。通常は、クライアントからの注文をOEM(他社のブランドの商品をオーダーメイドで作ること)で請け負っています。だから、その実績を世に出すことはできないので、毎日いろんなものを遊び感覚で作ってSNSにアップしているんです」

投稿欄を見てみると、長崎の魚、板チョコ、将棋の駒……? クスッと笑える、だけど作り込みが細かいハイクオリティな小物が毎日のように上がっています。
開発ルームの3Dプリンタでこのたびの立体データを出力し、そこへ流し込んだシリコンが固まると型になっていきます。空気が入らないように仕上げは手作業で。
何度も微調整を繰り返し、原型の数はどんどん増えていきました。




「実際の業務の方では、毎日バラバラのものを250件は作ってます」と話す津野田さん。津野田ゴムは工場で同じ規格のものを製造し続ける企業ではなく、まさにゴムのようにやわらかく変幻自在に対応しながら製品を生み出し続ける企業なのです。
石原「『何でもやってみよう!』と面白がって取り組む姿勢と、それがちゃんと物体という結果になって現れるのはすごいことです。今日失敗したとしても、次に繋がる学びは絶対にあるからっていう気持ちが伝わってきますよね。あと、失敗もSNSのネタになるというか(笑)」
日々の業務からSNSにアップされる自由研究まで、現場がクリエイティブな探究心に満ちた津野田ゴム。オーダーメイドを基本とする会社の気質があるからこそ、速くプロトタイプを作って、さまざまな状況に柔軟に対応し続けます。

もちろん技術的・設備的な強みもあるけれど、そんな企業精神こそが新しいプロダクトを生み出す原動力のようです。
メンバーさんの個性を活かして、ベストな製作体制へ
津野田さんは、こうも続けました。
津野田「うちは型は作れるけれど、量産ができないんです。それをGOOOOOOODのメンバーさんが担ってくれるのは本当にありがたくて。それとお香は消費財なので、お仕事を継続的に頼めるのも良いなと思っていました」
というわけで、今度はこちらへ!

GOOOOOOODのメンバーさんがこのたびを製造している様子を見せてもらいました。
担当の光岡さんは、何度もトライ&エラーを重ねた期間を振り返ります。
光岡「やっぱり、それぞれ得意なことや能力には違いがあります。混ぜることが難しい、型にはめることが難しいなど、やってみないと分からないことだらけでした」
石原さんから香料を調合した粉を大量にいただき、メンバーさんの得意な作業を探りながら、さまざまなパターンを試し始めました。




練る作業はかなり難易度が高く、時間が経つと練った素材が固まってしまうので、時間との勝負。ストップウォッチを置いて、作っては制作時間を測り、作っては測り……。そこから生まれる気付きの積み重ねは、より商品化を現実のものへと近づけていきました。
光岡「そうやって試行錯誤するたびに結果を共有していたら、津野田ゴムさんが新しい道具や型をすぐに作ってくれたんです。メンバーさんが作業しやすい環境を一緒に考えてもらえたのはとても助かりました」
指で素材を押し込むとうまく成型できなかったり、型が柔らかすぎると型抜きができなかったり。そこで、型の柔らかさの調整や、プレスに使う別のゴムを新たに作るなど、相談に対して津野田さんはスピーディーに対応してくれました。


そんな丁寧なコミュニケーションの構築により、練ることが得意な人・成型が得意な人の適性を見極めて、量産するための制作ラインが出来たのでした。
光岡「メンバーさんの中には、新しいことに挑戦したい・ステップアップしたいという気持ちを持ってる方もいます。これまでコーヒーや木製品を手掛けてきたけど、新しい作業ができるのはモチベーションも上がったと思います」
日常のそばにある何かを届けていくのは、ながよ光彩会の貞松理事長がやりたいことの一つ。コーヒーや木雑貨、そしてそこにお香も加わってきました。

貞松「本当にメンバーさんの得意と重なるのか、好きと重なるのか。津野田さんや石原さんがちゃんと現場を見に来てくれて、メンバーさんの個性や特性、難しさを感じた上で進めてくれるからこそ、安心して受けることができました」
このたびという商品の周りに、福祉を理解しようと向き合う関係人口が増えていくプロセス。福祉とものづくりの可能性が見えた気がしました。
思い出がよみがえる、香りの旅をお愉しみください
プロダクトデザイナーの石原さんは、商品づくりの中でネーミングも熟考。マインドマップで発想を広げていきました。

この商品を渡すときに、「この旅は……」というお土産話のきっかけになること、香りで思い出にトリップできる「香の旅」であること、「この度は……」というお祝い事の枕詞を添えてギフトにもなること。
また違う駅、異なるモチーフでも「このたび」が誕生する余白があるような気がします。

良い旅は、お土産と思い出を持って帰りたくなる。特別な非日常の中で味わう良い景色・良い出会い・良い時間を、誰かに伝えたいと思うから。
長与町の“まちの香り”で旅の記憶に直接呼びかける、JR長与駅の新しいお土産品「このたび」をぜひお持ち帰りください。